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【つくば市】ICT活用の歴史が深いつくば市の休校対応と次の学びのステージ ■取材日:7月16日(木)

教育現場でのICT活用に長い歴史のある茨城県つくば市では、新型コロナ対策に伴う休校中に、学校の営みや児童生徒とのつながりを止めない工夫をしてきました。具体的にどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。つくば市総合教育研究所 情報担当指導主事の中村めぐみ氏にお話を聞きました。

▼つくば市独自の教育リソースで緊急対応した3月〜フェーズ1

──つくば市では3月からの臨時休校にどう対応されたのでしょうか。

茨城県は3月15日から休校となり、つくば市では学びを止めないためにさまざまな施策を行いました。まず、教育委員会で「つくばキッズ」(https://www.tsukuba.ed.jp/~298kids/)というホームページを開設して、学習支援のプラットフォームとしました。つくば市が提供するオンライン学習教材やその他一般に公開されている教材に簡単にアクセスできます。なかでも「つくばチャレンジングスタディ」というeラーニングシステムは、もともとインターネットからアクセスできる学習教材として活用していたもので、そのまま休校時の家庭学習に活用しました。

また、つくば市で働く研究者と子ども達をつなぐ「つくばこどもクエスチョン」(https://tsukuba-steam.com/kodomo-question)というホームページを開設し、子どもたちが自分で探求的な学習を進めるサポートをしました。研究者に質問をすることができ、回答はYouTubeライブで配信し公開しています。

左「つくばキッズ」右上「つくばチャレンジングスタディ」右下「つくばこどもクエスチョン」

──つくば市は、インターネット上での発信や教育リソースの活用がとても充実していますね。eラーニングシステムについて詳しく教えてください。

「つくばチャレンジングスタディ」は、教科書準拠の問題が7万問用意されたAIシステムを搭載したe-ラーニングドリルです。2004年から続くシステムで、当初は学校内のみでの利用でしたが、現在は学校外からでも利用できます。授業で単元の学習到達度を確かめるために使用したり、家庭学習に自由に使えるようになっています。

つくば市のICT教育は歴史が長く、40年以上前から行われています。現在のeラーニングシステムにつながる教材は当初「CAI」と呼ばれていて、つくば市の森田充教育長はこのコンテンツづくりを始めたメンバーのひとりなんですよ。当時からコンピューターの活用には、個別最適化の視点があり、子どもの意欲やつまずきをサポートするものとして位置付けられていました。また、コンピューターは人と人との対話を促進させるものだというコンセプトがあり、当時の活動の写真を見ると、現在のICTを活用した協働学習の姿とよく似ていることがわかります。

中村氏提供資料より。円卓で話し合いながら活動している様子

▼4月からの新学期はホームページとメールで学習支援〜フェーズ2

──40年以上という歴史と、活用のコンセプトが今と変わらないことに大変驚かされます。休校対応の機動力を支える力のひとつですね。4月の新学期はどのように迎えましたか?

4月は始業のための登校日を1日だけ設けて、その後、学習課題のやりとりを始めました。学校ホームページで課題を告知し、課題の提出や双方向のやりとりはメールです。1週間サイクルで、金曜日に課題を出し、月、火、水曜日で子どもたちが自立解決をして木曜日に提出するという流れを作りました。課題にはYouTubeでの授業動画配信やMicrosoft Formsなども活用しています。メールは学校側にクラス別のメールアドレスを発行して児童生徒の課題提出に使えるようにしました。児童生徒側には保護者の個人所有メールアドレスを使用してもらっています。

──ソフト面での対応はスムーズな印象ですが、ハード面はどのような状況でしたか?

各学校への学習者用のPCは8人に1台の整備でしたので、まずは、家庭のPCを活用してもらう前提でさまざまな取り組みを行っていました。メールのやりとりができない家庭もありましたから、学校からのポスティング等の手段も組み合わせ、学校のコンピューター室の開放も行いました。その後、5月にGIGAスクール構想の前倒し調達で700台のPCを緊急整備することを決定し、6月には必要な家庭に貸し出すことができました。

──ソフト面で進められるところはすぐに実行しながら、ハード面の整備は追いかけたわけですね。ホームページとメールでの学習支援はどうでしたか?

いくつかの課題が見えてくる中で、特に、双方向のコミュニケーションが不十分なことが大きな問題でした。動画配信やメールで先生とのつながりは持てても、子ども同士の横のつながりがありません。配信型ではなく、リアルにつながれる手段が必要になりました。

そこで1人1台のPC環境を前提に、新たな学習モデルを検討しました。単なる休校対応ではなくコロナ期を乗り越えてAfterコロナの学びを進化させる仕組みです。つくば市にはもともと「スタディーノート」という意見交換や共有に使うグループウェアがあり、校内限定で使用していました。これを家庭からでも使用できるようにして、zoomのビデオ通話と併用することで、離れていても協働学習が可能だと考えました。

▼新たなつくば市モデルへ向けて〜フェーズ3からafterコロナへ

──新しいモデルのためにどのような準備をしていますか?

システム面の大きな整備として、オンプレミスでのサーバー管理からクラウドサーバーへの移行をしました。また、5月21日に分散登校が開始してすぐに、この授業方法の公開検証を行っています。教室で授業を受ける生徒と、家庭でzoom経由で受ける生徒がいる状態で「スタディーノート」を活用した授業が行われました。この検証を通じて、違う場所にいても、同時に授業を受け意見交換ができるのだという実感が持てました。また、これは予測していなかったのですが、これまで登校が困難だったお子さんが、この授業には家庭からオンラインで参加することができました。

5月22日にみどりの学園で行われた公開検証授業の様子。9年生(中学3年生)の授業

「スタディーノート」を使用すると、離れていても全員の意見をひとつの画面で表示することなどができる

今後、学校と家庭をつなぐ新たなスタンダードとして、この「スタディーノート」の活用に加え、「つくばチャレンジングスタディ」の利用とその学習履歴の活用も行う予定です。afterコロナはbeforeコロナに戻るのではなく、beforeコロナの良さとwithコロナで見えた良さを合わせて、次の学びのステージに入ります。

──学習履歴の活用については、文部科学省が「教育データの利活用に関する有識者会議」(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/158/index.html)を開き、中村指導主事も委員をされていますね。これからますます注目が集まるテーマです。現在の学校の様子はいかがですか?

6月8日から通常登校を行っています。6月半ばには必要な家庭へのPC貸し出しが完了しましたので、次の非常事態に備え、学校と家庭でzoomの接続テストを行うよう呼びかけているところです。普段の授業で1人1台のPCを使える環境はまだありませんが、学校整備のPCを交代で利用して、Microsoft Formsや「つくばチャレンジングスタディ」等を引き続き活用しています。校内でzoomを活用して密を避けて集会を行ったという例もあります。

──以前に戻るのでは無く新しい取り組みが継続しているのですね。今回のコロナ対応で何が一番大きな変化だと感じていますか?

これまではICTというのは便利な道具だったんですよね。今回、コロナで人とつながりたくてもできない状態になってしまい、その課題を解決したのがICTの力でした。ICTは単に便利なだけでなく、自分たちの目の前にある大きな困難を乗り越える力になるということをみんなが実感できたことは大きな変化です。1人1台のPCが必要だというマインドセットができたと感じています。


休校に入って以降、すぐに使える手段から速やかに活用し、独自のシステムを持っている強みが生かされたつくば市。ICTの活用ビジョンが歴史的にも強固で明確なので、1人1台体制が整ったときにどのような活用がされるのか、今後の展開が楽しみです。


執筆者:狩野さやか(かのうさやか)

株式会社Studio947(https://studio947.net)のライター、デザイナー。技術書籍や記事の執筆、ウェブデザインに携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」(https://ict-toolbox.com)を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。





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