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【奈良県・奈良市】 県・市の連携プレーで「学びを止めない」。オンライン学習のスピードスタート ■取材日:5月5日(火)

2月27日(木)の突然の休校要請に始まり、この数ヶ月さまざまな判断を重ねながら、子ども達の学びを継続するために多くの教育関係者が力を尽くし続けています。

奈良市では独自の判断と奈良県との強い連携を背景に力強くオンライン学習環境の整備を進めてきました。4月には全小中学校でビデオ会議システムを試運用し、5月には、Googleの教育向けクラウド型サービス「G Suite for Education」(以下「G Suite」)の導入と、必要な家庭への機器の貸し出しを実現しています。現時点で5月31日までの休校が決まっており、中学校から順次「G Suite」の利用をスタートし、双方向授業などに活用する予定です。

もともとICT環境が整っていた地域と公立学校は圧倒的に少ないのが実情で、奈良市もその例外ではありません。導入の経緯と背景について、奈良県立教育研究所 教育情報化推進部主幹 小崎誠二氏と、奈良市教育委員会事務局 教育部学校教育課情報教育係 係長(奈良市教育情報セキュリティアドバイザー) 谷正友氏にお話を聞きました。


ーーいつ頃からオンライン学習の準備に動いたのでしょうか?

谷)3月は突然の休校で、卒業式や年度末をどう迎えるかということが対応の中心でした。状況が日々変化し、4月に学校を開ける見通しが厳しくなった3月の後半に検討を始めましたが、時間の猶予はありません。奈良市では4月6日に登校日を設けていたので、どうにかこの日に個人IDを配布して利用をスタートできるサービスを探し、ビデオ会議システムの「LINC Biz」を導入しました。

ーーPC等のハードや通信環境は、各家庭にあるものを使う前提でしたか?

谷)はい。検討当初から、子ども用の情報機器やインターネット環境が無い家庭の割合をアンケートで把握し、貸し出し機器の整備にも動き始めていましたが、時間が必要です。まずは試運用という位置づけで、ビデオ会議システムを使い始めることを優先しました。全員が利用できるわけではないのでコミュニケーションの場として活用し、学習課題はプリントの配布やポスティングで全員に確実に届くようにしました。

ーーまずできるところから運用をスタートして、機器整備はあとから追いかけたわけですね。

谷)公教育ですから、オンラインでの授業や学習活動に重点を置こうとすると、すべての子どもの環境を整える必要があります。もともと各校に40台程度ずつ整備していたタブレットPCを貸し出し機として使えるようメンテナンスし、1600台のモバイルWi-Fiルーターを確保しました。費用面でも教育委員会内の議論で済む話ではありませんので、市と協議を重ねて実現に至っています。4月の終わりには、まず、中学校で貸し出せる環境を整えました。

ーーちょうど同じタイミングで「G Suite」が導入されていますが、これも同時に動いていたのでしょうか?

小崎)「G Suite」は奈良県全域で導入する前提で県が整備しました。もともと「GIGAスクール構想」に基づく1人1台のPC環境整備を県域で共同調達することを決め、市町村と協議を重ねてきたので、県で共通の教育用クラウド型サービスを導入すること自体は見越して契約を済ませていました。ただし具体的なことが決まっていたわけではなく、4月に臨時休業の長期化を想定すべきと判断した時点で動き出しています。「G Suite」の利用を決め、県域の共通ドメインでの導入準備を整えた上で、当時独自にオンライン化に動いていた奈良市を全力でバックアップして、市内児童生徒の個人IDを発行しました。

谷)県から「G Suite」の運用の前倒しの話を受け、市教育委員会としても「LINC Biz」に代わる総合的な教育サービスとして「G Suite」を導入する方針を決めて準備を進め、4月の終わりには、中学校から順次個人IDの配布を行うことができました。

ーー市も県も猛スピードで同時に動いて5月からのスタートが実現したのですね。

小崎)通常1ヶ月かかるような話を1日ごとに決めていくような感覚です。

谷)1年以上協議してきたことを、半年前倒しにする。ほんとにできるか不安な中で、止まっていては進まないので、課題が出てきたらその都度工夫して乗り越えていくという状況でした。

4月27日のID発行後、5日間の事前研修を経て、5月7日、8日には、生徒との活動を開始、11日には、朝の会の全面実施を目指しています。

ーー4月からこれまでの動きについて、保護者や子ども達からはどのような反応がありましたか?

谷)市の教育委員会に届く声がすべてではありませんが、取り組み自体を非難したり否定するような声はほとんどありません。むしろ、活用を始めたビデオ会議システムについて、こうしてくれるともっと参加しやすくなる、使いやすくなる、という運用上の要望や提案を受け、同時に保護者のさまざまな不安な気持ちにも触れてきました。

子ども達の声
(※クリックで画像を拡大)

小崎)私は奈良市に住む保護者でもあり、保護者側の声も積極的に聞いてきましたが、親としては、子どもに何もしてあげられない、何をどうしたらいいか知りたいという不安が大きいわけです。学校や先生から連絡が来て、動きが見えること自体が安心につながっています。オンラインの取り組みの始まりやその方法が変わることへの不満はないし、むしろそれは学校が次々に手を打ってくれているというプラスの受け止め方をされています。休校の長期化が見えてきた4月の後半には、「学校もがんばってくれているのだから自分たちもがんばらないと」という声が増えてきました。

谷)ビデオ会議で先生と子ども達のコミュニケーションの場を設けたとき、子ども同士の自主的なやりとりが生まれ、学校の休み時間のような場だと感じました。子ども達の目が生き生きとしていたという声もあり、授業はできなくても、リアルに会えなくなった子ども達がオンライン上でコミュニケーションできる場を作れたことは、それだけで意味があるのだということに気づきました。

ーーこのスピードを実現した県と市町村の連携の秘訣はどこにあるのでしょうか?

谷)奈良県では、2018年に県域で校務支援システムの導入を進め2019年から稼働し始めています。県と市町村でていねいに協議を重ねて実現したことがひとつの成功体験になって、「GIGAスクール構想」での共同調達も進んでいます。今回のような緊急対応でもその協力関係がベースにあります。

小崎)県域で進めることのメリットは、教員の異動や子どもの進学があっても奈良県内であれば同じ環境を使い続けられることにあります。市区町村がそれぞれで取り組もうとしていることを、県全体で同じ仕組みを使えるように形を整えるのが県の役割だと考えています。その上で、市町村や学校間で助け合って、自由に使い方を工夫して欲しいです。

 


 

奈良県も奈良市も、決して順序立てて進められたわけではなく、目の前のことを今までにないスピードで判断し、通常の手順を飛び越えてでも、走りながら次の手を打ってきたことがわかります。また、県と市が、それぞれパラレルに動いて適宜マージするという柔軟な連携をしていることが印象的です。この動きを支えているのは、子ども達や保護者の不安を決して放っておかないという静かで強い思いであることを感じさせられました。

※現在、全21中学校で朝の会を実施、5月14日より中学校で整えていた貸出事業を小6、小5まで拡充。5月18日以降はmeetセッションもスタートしている。

 


 

執筆者:狩野さやか(かのうさやか)
株式会社Studio947(https://studio947.net)のライター、デザイナー。技術書籍や記事の執筆、ウェブデザインに携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」(https://ict-toolbox.com)を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。

 





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