経済産業省|METI

越境学習による
VUCA時代の企業人材育成

経済産業省「未来の教室」事業
社会課題の現場への越境プログラム



導入事例紹介




「越境」で自分を変え、会社を変える

不確実で変化の激しい時代において、
どのようにイノベーションをもたらす人材を育てていくのか――。

その一つの仮説として、「社会課題の現場へ越境する機会」の提供がある。今回は、NECグループの人材開発を担当し、「社会課題体感型人材開発プログラム」を企画・導入したNECマネジメントパートナー株式会社人材開発サービス事業部主任の逢坂浩一郎氏に、なぜ社会課題の現場なのか、研修がどのような変化をもたらすのか、話を聞いた。


NECマネジメントパートナー株式会社
逢坂浩一郎 様

2000年にNEC入社。以来、人事部門一筋。最初の10年はHRBPとして、複数の事業部門人事を担当。2011年より人材開発担当として、タレントマネジメントやサクセッションプランニングに携わった後、2014年にNECマネジメントパートナーへ移り、幹部人材育成をはじめとした選抜型研修プログラムの企画・運営を手がける。2018年から越境学習を担当することになり、NECグループの社会課題体感型人材開発プログラムを企画。


自分の業務が社会に与えている影響を意識するきっかけに

――逢坂さんは現在、どのような業務を担当されているのでしょうか。

逢坂私のミッションは大きく二つあります。一つは、経営幹部向けのリーダーシップ開発プログラム「NEC社会価値創造塾」の企画運営。もう一つは、若手・中堅社員向けの「社会課題体感型人材開発プログラム」の企画運営です。
いずれのプログラムにも共通しているのは、テクニカルなスキルを教えるものではなく、マインドセットやWillを強化するタイプの研修を実施していることです。

それらのプログラムの中で、階層や状況に応じて複数の越境学習を取り入れています。

    

社会課題体感型人材開発プログラムのコンセプト(同プログラムは”Sense”という呼称で展開されている)
(逢坂氏ご提供)

    

社会課題体感型人材開発プログラムのタイプ分類(逢坂氏ご提供)

    NECは、会社のパーパス(存在意義)として、「社会価値の創造」を掲げているので、越境体験の機会として、社会の“不”を五感で体感できる社会課題の現場に赴くことを重視しているのが特徴です。「社会と社会課題を深く理解した人材」 「社会価値創造の原体験を持った人材」を増やし、ひいてはNEC全体を社会価値創造企業に変えていく一助にしていきたいと考えています。

――社会課題の現場に訪れることにはどのような意義があると感じていますか。

逢坂私たちの事業は、企業や政府、地方公共団体などにITシステムやネットワークシステムなどを提供するBtoB、BtoGの事業がメインです。なので、普段はそのシステムの先にいる人々を意識する機会がなかなかありません。

    社会課題に直面する方々の状況を直接見聞きすることで、社員たちが自分自身の業務と社会課題とのつながりを見出し、仕事についてビジョナリーに語れるようになると考えています。

    また、ICTの力で直接的には解決できない課題があったとしても、社会課題の「構造」を理解していれば、連鎖している課題の解決に寄与しているなど、間接的に課題解決に貢献していることを意識できますよね。

    社会課題の現場を訪れて、目の前で困っている人を助けるというミクロな視点と、社会課題の構造を捉えて、間接的にでも問題解決に資するというマクロな視点と、両方を行き来することが重要だと考えています。

越境体験を経て、困難な道のりも乗り越えられる力を身につけた

――越境学習の研修プログラムを導入する以前にはどのような課題感をお持ちでしたか。

逢坂一言で言うと、「NEC村に閉じこもってしまっている」という印象がありました。第一に、大企業にありがちな話かもしれませんが、業務が縦割りになっており視野が狭くなっているなと。第二に、受け身の仕事のやり方が染みついてしまっていて主体性に欠けるなと。そして第三に、自分自身を変えることへの抵抗感が強いとも感じていました。VUCAの時代、これからイノベーションが必要になってくるにもかかわらず、外の世界を見て、主体的に、自分を変え事業を変革していくという部分に課題を感じていました。

――実際に越境学習の研修プログラムに参加した社員は、どのような成果を挙げていますか。

逢坂色々なパターンがありますね。象徴的なのは、越境学習の一つであるNPO法人クロスフィールズさんの「留職プログラム」に参加したある社員がインドで事業を立ち上げたことです。彼は2013年に半年間、インドのソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)のもとで現地の課題解決に取り組みました。それから7年越しで、インドで生活習慣病の予防を目的とした健康診断サービスを事業化したんです。

    

【NECプレスリリース】https://jpn.nec.com/press/202002/20200209_01.html
【 関連記事 】https://wisdom.nec.com/ja/feature/healthcare/2020073101/

    彼は、会社が掲げている社会価値創造や社会課題解決のビジョンにはまだまだ実態が伴っていないと感じていて、プログラムに参加する前から、社会を良くしたいという想いと自分が社会課題解決型の事業を創り出してやるという意欲を持っていました。留職プログラムという越境体験を経てその想いがより強くなると共に、社会や社会課題の見方の解像度が上がって、誰に対してどんなことをしたいかがより具体的に見えてきたのではないかと思います。

    新たな事業を立ち上げるのは様々な困難が伴うものですが、目指す方向性が決まって、アクセルを踏んでいく燃料となる想いがあれば、その困難にぶち当たってもあきらめず、粘り強く乗り越えることができます。

    NECという会社の看板が通じない見ず知らずの土地で、自ら課題を設定し、行動し、やり遂げてきた経験を経て、「自分でもできる」という自信を持てたことも大きかったような気もします。

    

社会課題体感型人材開発プログラムの様子(逢坂氏提供)

    なお、新しい事業を生み出すことだけが成果ではありません。社会に対して問題意識を持つようになった人、自分の仕事への取り組み方が変化した人、自分の意志で異動をする人、異動はしないが有志活動を始めた人など、色々なアクションが出てきています。

    全員に共通しているのは、心に火が灯っていること。そのぶん悩み苦しむことも多いと思いますが、それでも前に進んで行こうとしています。

    越境学習は、テクニカルなスキルの研修と違って、明日の業績に直接影響するプログラムではないんですね。マインドセットが変わることで、目標設定の仕方だったり、業務の捉え方だったりが変わって、本人が持っている力がより発揮されるようになる。それが最終的に仕事の成果として表れてくると考えています。

人事がチャレンジしないと変わらない

――プログラム実施の際やアフターフォローにおいて工夫されていることはありますか。

逢坂まず、きちんとした内省、振り返りの時間を確保することですね。越境型のプログラムで得られるものは多様です。それらをきちんと消化し、言語化できるようにフォローしていくことで、本人の学び、気づきを明確にするとともに、他者へも発信ができるようになります。

    もう一つは、上司を巻き込むことです。プログラム開始前のオリエンテーションも参加者と一緒に受講してもらいますし、プログラム中も参加者の変化に寄り添ってもらうように定期的なコミュニケーションの機会を設ける等配慮しています。そして、プログラム終了後、彼ら彼女らのポジティブな変化を見逃さず認知・承認して、職場で活かしてもらえるようにしているんです。

    Off-JTにかけられる時間は、あくまでも全体の業務の中の10%ほど。多くはOJT、職場での成長にかかっています。なので、プログラムで得た体験をいかにきちんと内省し消化できるか、そして、それを日常に活かしていけるか、上司や周囲に活かしてもらえるか。経験を風化させないことが重要だと思っています。

    その他で工夫している点としては、出来るだけ複数人でプログラムに送るということですかね。プログラム上の活動は一人ひとり別でも、同種のプログラムへ参加する人は複数人にしていて、一緒にオリエンテーションを受けてもらったり、参加者同士の横のつながりをつくるイベントを開催したりしています。同じ想い、悩みを分かち合える「同志」をつくるようにしているんです。越境型の取り組みは、プログラムが終わって通常業務に戻った際に様々な悩みが生じるものです。そんなときに共感し、一緒に頑張れる仲間がいることは、プログラム終了後にさらに活躍してもらう上で大切になります。

    

継続的な成長と成果創出のためのプロセス毎の工夫(逢坂氏ご提供)

――最後に、社内に変化をもたらしたい人事担当者に向けてメッセージをお願いします。

逢坂変革やイノベーションを生み出す人材には、現状を何とかしたいという強いパッションが欠かせませんが、それを醸成する最も良い方法が、越境による学習だと私は信じています。

    「会社を変えなければいけない」と思っている方は社員の方にも人事部門の方にもたくさんいるはずですよね。であれば、人事自らが変わらなければ/チャレンジしなければならないと思います。

    「社会課題の現場へ越境する」機会を創っていくことを、新しい学びの手法として人事部門の方々にも是非チャレンジしていただければと思います。

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